「も…もー!ちょっとは遠慮してよね!てゆーか流風、こっちに戻ってきたの?高校は私と同じで東京だったよね」
これ以上この話を続けるのが嫌で、強引に話をそらす。
流風は珍しく迷ったようにうつむき、それから顔を上げた。
「ああ。このアパートの104号室で一人暮らししてる」
──え?104号室?
流風の言葉に、思わず目をまたたく。
不動産屋さんからは、このアパートには私以外に3人しか入居していないって聞いたはずだけど…。
101号室のおばあさんと、102号室の若い夫婦。
3人じゃなくて、3組だったのかな?
「そうなんだ。じゃあお隣さんだ」
少し不自然さを感じたけれど、私の聞き間違い、もしくは相手の言い間違いだと思い、深くは追及しないことにした。
「桜華はどうしてこっちに?」
今度は俺の番、というように質問を投げかけてくる流風。
「私はこの春から中学校の先生になるの!運命だよね、母校で勤務とか!」
手を合わせてはしゃいでみると、流風は素直にすごい、と感心してきた。
なんか、不思議なかんじ。
流風の髪は、中学のときと変わらず、黒いまま。
東京に行ったらほとんどの人が染めてるのに、浮くとか気にならなかったのかな。
二重のぱっちりとした瞳が、くしゃりと笑顔を作るたびに細くなるのも変わらない。
反対に私は、すごく変わった。
メイクでだいぶ印象は変わっただろうし、短くストレートだった髪は、腰まで伸ばした挙げ句、ふわりと巻いて。
中学の頃は、人目なんて気にもせずに大口を開けて笑っていたけど、今ではもう、口元を隠して笑う。
この村だって、7年前とずいぶん変わった。
人も自然も、変わっていく。
少しずつ、確実に。
なのにまるで。
流風だけが、取り残されたように。
──変わらない。
今も昔も、ずっと。
私が好きだった、あのときのまま。
ふわりと春風が吹き、流風がふと呟いた。
「お腹空いた。何か食おうよ」
──変わらない。
マイペースな彼に、振り回される。