次の日。

昨日と同じようにスマホのアラームで目を覚ました私は、昨日と同じように隣──104号室のインターホンを押した。

鳴ってるのかわからないから、ちょっと不安。



「…あれ、またいないのかな」


しん、と物音一つしないことに首を傾げる。


昨日みたいに散歩でもしてるのかな。

それなら川沿いの道を歩いてみた方がいいかもしれない。この辺りで散歩できそうなのってそこしかないし。



そう思って振り向く────と。






「…っ!?流風…びっくりした…」



足音も気配もなく、いつのまにか流風が立っていた。

情けなくドキッと跳ねた心臓を右手で押さえる。


流風は一瞬うつむき、それから顔を上げていたずらっぽく笑った。


「びっくりしただろ」


子供っぽすぎるいたずら。心臓に悪いよ…。


「もう!」


やめてよね、という感情を込めて、わざと頬をふくらませて言う。

流風はそんな私の抗議を笑ってかわすと、俺に何か用?と首を傾げた。


「あー……用ってほどでもないというか…」


迷惑だったらどうしようという感情がほと走り、語尾が自信なさげに小さくなっていく。

流風が少し顔をしかめて、はっきり言えよ、と呟いた。


「…っごめん…」


言いたいことは言えないまま、口からこぼれるのは意味のない謝罪だけ。

流風がさらに顔をしかめる。


「謝るんじゃなくて。何?」


用があるから来たんだろ、と言わんばかりに流風は、首を傾げた。


「……あのね、私今日、暇なの」


なのにやっぱり、私の口からこぼれるのは遠回しすぎる曖昧な言葉。

流風が、うん、とうなずく。


彼は待つのが苦手だった気がするけど、でも待っていてくれるみたい。

そんな不器用な優しさに、ふわりと胸が温かくなった。


「…昨日、一緒に散歩できなかった、でしょ?」


ほんの少しだけ、勇気を出してみる。

流風は、ああ、とうなずいた。


「今からする?」


さらりと何でもないことのように言う流風に、さっきまでの緊張がバカらしくなった私は、思わず苦笑をもらす。


「……うん」




いつもいつも私の欲しい言葉をくれるのは、紛れもない、今ここにいる流風だ。