「でさ、その辻先生っていう人、けっこうイケメンなんだよ」


小さなテーブルに乗ったハンバーグ。

少しだけ焦げたそれは、もう半分以上は流風のお腹の中に。

苦いとは言われたけど、結局ぱくぱく食べているところを見ると、そんなに大変な失敗ではなかったらしい。


「そうなんだ」


私の話を聞いているのかいないのか、興味なさげに相づちを打ってくる流風に、私はため息をつく。


「もー。流風ってほんと子供。辻先生は優しい大人の男性ってかんじだったのに」


その私の言葉に、流風がむっと顔を上げた。

怒ったのかと思ってあわてて謝ろうとすると、流風は私から目をそらし、小さく呟く。


「……桜華は大人っぽい人が好きなのか?」






どきん、と心臓が跳ねた。




思いがけない呟きに、顔に熱が集まってくる。







「…え…と、まあ…」




そんなことを言われたら、意識してしまう。



──流風はもしかしたら、私のことを。



……っいや、そんなわけ、そんなこと、ないはず、なのに。







──期待、してしまう。








「……ごちそうさまでした」


何事もなかったかのように手を合わせた流風が、美味しかった、と言って立ち上がる。


「もう帰るの?」


そう聞くと、流風は小さくうなずいた。


「じゃあな」


「うん。また明日」


ばいばい、と小さく手を振ってみる。


優しく笑って手を振った流風が、なぜだか今にも泣き出してしまいそうに思えて、胸が苦しくなった。