喫茶店を出ると、天海先生てどこに住んでるの?と聞かれた。


「あ、学校の裏門の方にある、アパートです」


一人暮らし始めたばっかりなんですよ、と笑ってみせる。

辻先生は、そうなんだ、と微笑んで返してくれた。


「俺は2駅先のアパートで一人暮らし。じゃあ俺、電車だから」


ばいばい、と手を振る辻先生。

でもすぐに、はっと私を見た。


「危な。忘れてた。連絡先教えて?」


一瞬どきんと心臓が跳ねる。

異性と連絡先を交換なんて、と変に意識してしまった。


「あ…はい」


でもこれは、別に深い意味があるわけじゃなくて、仕事の連絡をしやすくするため。

すぐにうなずき、緑色のアプリで連絡先を交換する。


「じゃあ今度こそ、またね」


ふわりと自然に笑った辻先生が、小さく手を振った。

私もあわてて振り返す。


「はい!」


アパートに戻ったら、流風に今日のことをたくさん話そう。

一緒にご飯を食べたいな。

帰りに食材を買っていって、ちょっとだけ料理してみようか。

料理なんて全然したことないけれど、流風なら喜んでくれるかな。
……ああでも、彼は素直にまずいって言ってくるかも。


でも、流風はいつも最後は優しいから、ありがとうって言ってくれる。




流風のことを考えるだけで、自然に笑えた、気がした。