「呼んだ?」
ふわりと風が吹いたと同時に、背後から流風の声がした。
その声に驚いて、すごく安心して、振り向く。
「流風…!出掛けてたのか……良かった…」
私の言葉に彼は目を瞬かせたけど、すぐにふわ、と笑った。
「俺ならここにいるよ」
心の中を見透かされたかのような言葉に、どきんと胸が鳴る。
──昨日のような、知らない流風じゃない。
自分のよく知っている、いつもの流風だ。
「も、もー。わかってるよー。てゆーか流風、こんな早くからどこ行ってたの?」
不安になっていた自分が何だか恥ずかしくなって、目をそらしながら聞くと、流風はくい、と首をかしげた。
「…散歩?」
なぜ疑問形。
「おじいちゃんじゃないんだから!」
そして答えが年寄りくさい。
つい突っ込むと、流風は声を上げて笑う。
彼がそんな風に笑うのは珍しい。
ほわ、と胸が温かくなった。
「今の季節、桃の花が綺麗だよ。桜華も行かね?」
さりげなく、そんな提案をされる。
……それって、もしかしなくてもデートだ。
すごく行きたい。でも。
「私今日、学校行かなくちゃいけなくて。また明日でも良い?」
これほど学校を恨んだのは初めてだ。
流風は、もちろん、とうなずいてくれる。
そんな彼にほっとして笑ったとたん、私はハッとして顔を隠した。


