ピピピピピ…と、スマホのアラームが鳴り響いた。

鳴っているのはわかるけど、動きたくない。

ぼんやりとした意識のままアラーム音を聞いていると、しばらく鳴っていたアラームが大人しくなった。

確か、10分後にまた鳴る設定にしていたはず。

今起きないと、またアラームに起こされてしまう。


それは嫌だな、と思いながら、私は重たい体をゆっくり起こした。

小さくあくびをし、立ち上がる。


──何だかすごく、懐かしい夢を見ていた気がする。

温かくて、優しい夢。


何だっけ、と思い出そうとするも、その思考はもっと大事なことによって遮られた。


「学校行かなきゃ!」


今日、新しい職場──と言っても母校なわけだけど、そこに行くことになっている。
だからわざわざアラームかけたのに、すっかり忘れてた。


和室に敷いた布団はそのままに、慌てて洗面所に向かう。

鏡を見ると、自分の長い髪がところどころ跳ねているのが見えた。



思い出したのは、7年前の流風の姿。

彼の髪の毛はいつも、あちこち跳ねていた。

直せばいいのに、と言えば、めんどくさいもん、と返された覚えがある。

今もあんな風に、髪は跳ねたままなのだろうか。
どうしようもなく、気になった。

確か流風は、104号室に住んでいるはず。
行こうと思えばすぐに行ける距離…………でも。

昨日、何だか気まずいまま別れたのに。

今行ったら、迷惑なんじゃないか。


──あの流風の笑顔が、忘れられない。

何かを隠しているような。気持ちを押し殺すような。

そんな、無理やりな笑顔。




とかした髪がもうどこも跳ねていないのを確認し、ヘアピンで横の髪を止める。

服を着替えても、流風に会いたいという気持ちは変わらなかった。むしろ大きくなってる。


──何も聞かなくていいから。

ただ、会いたい。

例え流風が、何かを隠していたっていいから。




……ちょっとだけ、顔を見るだけなら、いいよね。







少しためらったものの、私は玄関の扉を開いた。