「ねえ流風。東京行ったらさ、もう会えないかな」
初恋を自覚して、何も進歩しないまま早1年が経つ。
卒業式が終わったあとの教室。
もう帰って良いというのに、クラス全員が残る教室の中、同じように私と流風も教室に残っていた。
もう卒業だなんて、信じられない。
「東京ってさあ、人多いよね。もう会えないだろうなぁ…」
何も返してくれない流風に、涙がこぼれそうになるのをこらえながら言う。
だって、大好きなこの場所とは、笑ってお別れしたい。
「…なんか、東京行くのにずっと憧れてたのに、いざとなると怖いね」
私は流風の連絡先を知らない。
そりゃ家電くらいなら知ってるけど、流風はもう1週間後には、都内の寮で1人暮らしだ。
私の方はお母さんが1人暮らしを心配したのと、お父さんの転勤が見事に重なってくれたのとで、家族みんなで東京に引っ越す。
当然家電の番号は変わってしまうし、もう会えなくなってしまうだろう。
「…ねえ」
相変わらず何も答えてくれない流風に、私はもう一度呼びかけた。
流風がようやく、こっちを見る。
「……会えるよ」
彼も、泣いていなかった。
むしろ、いつものような無邪気な笑顔を浮かべていた。
「東京って狭いじゃん」
「…狭いって言ったって」
この村の何十倍の広さに、何百倍もの人がいる。
会えるわけないよ、と呟くと、流風はんー、と上を向いた。
「会いに行くよ、俺が」
さらりと、当たり前のように紡がれた言葉に、心臓が跳ねる。
高校卒業して、大学卒業して。
大人になったら、絶対桜華に会いに行くよ。
大丈夫、俺探すの得意だもん。
──そんな風に、何でもないことのように笑う流風の姿が、滲んだ。
ぽたり、と机に涙が吸い込まれる。
──どうして流風は、いつもそうやって。
卒業式は泣かないって、思ってたのに。
笑って卒業するって、決めてたのに。
いつもいつも、流風の一言が、私の心を揺らしてきて。
流風が焦ったように、泣くなよ、と言ってきた。
「……うん。待ってる、から」
小さく息を吸い込んで、涙を拭う。
早く大人になりたいと、強く思った。
──夢物語だって、わかっている。
そんなの無理だって、わかっている。
でも。
それ以上に、流風のことを信じたい。
──だって、好きだから。