一番窓際の、前から3番目のいわゆる”当たり席”が私の席だ。
クラスメイトにおはよう、と言いながら席に着く。
前の席の流風が、早速振り向いてきた。
「おはよー流風」
「おはよ。英語勉強した?」
席に着いたとたんこれか。小テストがある日って必ず朝の会話はこれだよね。
流風の仲間を求める瞳に、思わず笑いがこぼれる。
「してないよー。てゆーかテストがあること知らなかった」
流風が、まじかよ、と無邪気に笑った。
「俺は知ってたけどめんどくて」
昨日はやる気が起きなかった、と言い訳をこぼす彼に、何それ、と笑いながら返す。
「知ってたならやりなよね」
「知らなかったのはもう論外だな」
う、と詰まると、流風が声をあげて笑った。
こういう何気ないやり取りが楽しくて、私はまた笑いをこぼす。
と、そんなことをしていると、よく通る声が聞こえた。
「流風ー!!今日マジで英語のテスト!?」
声の方を見ると、今来たばかりであろう遼太──こと、遼ちゃんが、自分の机に荷物を投げ置き、寄ってくる。
流風がうん、とうなずいた。
「やっべえ全然覚えらんない!!桜華!覚えるコツ!」
「私全然やってないもん!!」
「それ英語1位の言うセリフか!?」
自慢じゃないけど、私は英語の成績がクラストップ。
他は平均と良い勝負、みたいなかんじだけど。
「ほのちゃんは英語しかできないもんね」
図星を突いたセリフが、後ろの席から聞こえてくる。
振り向くと、柔らかい髪に華奢な見た目の女の子──胡桃(クルミ)こと、くるみんと目が合った。
「そういうこと言わないの!てゆーかくるみん勉強した?」
「ううん。くるみん今ピンチだから」
そう言ったくるみんの机の上には、英語ではなく数学のプリントが乗っている。
…私これ知ってる。今日朝起きてから気付いて、あわててやったやつだ。
「数学のプリントやってないことに家出てから気付いて。今ピンチなの」
数学は1時間目。確かにピンチな気がする。