──これは、まだ私が中学生の頃、7年前のお話。








「ほーのか!」


朝、中学校に登校してきたところ、靴箱で声をかけられた。

振り向くと、小さな顔に赤いフレームの眼鏡をかけた、花純が笑っている。

私も笑って、おはよう、と言った。

花純はおはよ、と返しながら、上履きを手に取る。

それを床に落としながら、大きな瞳を私に向けてきた。


「今日英語の小テストだね」


「待って私そんなの知らない!!」


さらりとやばいことを言われた気がする。

花純は私の反応に、やっぱり、と笑った。

それから素知らぬ顔で運動靴を靴箱に放りこむ花純。冷たい…。

やばいー!と叫んでいると、後ろから軽く頭を小突かれた。


「ほのうるさい。朝から元気だねー」


上から降ってくる声に、振り向く。

細身の体にすらりと高い身長。


「李人(リヒト)!ね、今日英語のテストって知ってた?」


頭を小突いてきた男子生徒──李人が、もちろん、とうなずく。


「何、ほの知らなかったの?」


「何で知ってるのー!やばいよどうしよう!」


どうしようも何も、今から勉強するしかないんだけど。


「ほら、だったらこんなとこで道草食ってないで行くよ。やばいなら教室行って勉強しなきゃ」


真面目でしっかり者の花純に背中を押され、私はようやく教室に向かって歩き出した。

李人が一緒に来ていた恭(キョウ)と後ろをついてくる。

1学年1クラスだから当たり前なんだけどね。


靴箱に一番近い階段を上って、最初に見えてくるのが3年生の教室だ。


後ろで恭が、英語のテストなんかあるの!?と驚愕の声をあげている。

良かった仲間がいて、と胸を撫で下ろしながら、私は教室のドアを開けた。