初めて流風に、誤魔化された。


「…流風?」


涙を拭って、名前を呼んでみる。

流風が体ごと、こっちを向いた。


その瞬間に、ふわりと風が吹く。

窓が開いていたのかと思って見ても、窓は変わらず閉めきったまま。

じゃあ、なんで。



──流風が、微笑んだ。


何かを隠すような、笑顔。

初めて見る、彼の作り笑い。

下手くそな。



どきん、と胸が鳴る。


さっきのような、甘くてふわふわした気持ちではない。

流風が、知らない人のように見えて。


「りゅ…」


「そういえば俺、用事思い出した」


わかりやすすぎる嘘。

何かを隠すように、言ってしまわないように。


嘘つくの下手だね、と笑う余裕もなかった。

流風がするりと、私の横を通り抜ける。



──待って。


そう言おうとして、理性が邪魔をしてきた。

ここで引き止めたって、結局気まずいままだ。
流風は今、私といたくないのに。


「…っそっか。またね」


結局引き止められずに、笑顔を作る。

愛想笑いは、流風より得意だ。


流風は私の顔も見ず、ああ、とだけ呟いた。


がちゃ、と玄関の扉が開く音がし、数秒後に閉まる音もする。



──何だか急に、彼が遠くに行ってしまった気がした。