「じゃあ私の家行きますか」
手伝ってね、と念を押すと、流風は仏頂面のまま、「わかったよ」と、素っ気なく答えてくる。
7年経っても子供のような彼に、思わず小さく笑ってしまった。
反抗期の子供を相手にしてるみたい。
「何笑ってんだよ」
不機嫌に頬をふくらませた流風が、これまた不機嫌な声音で言ってくる。
別にー?、とおどけて返せば、さらに流風はむすっとした。子供か。
そして、その不機嫌な表情のまま、流風が私の一歩先を歩き出す。
足が長いからか、歩くのが速い。
あわてて彼のことを追いかけると、ヒールがカツカツと切羽詰まった音を刻んだ。
その音を聞いて、自分の歩くスピードが速いことに気付いたのか、少し流風が歩くスピードを落としてくれる。
それから、ちらりと目だけで振り向いてきた。
「速かったんなら言えよ」
流風のまっすぐな言葉に、私は苦笑いを返す。
──歩くの速いよ。ちょっと待って。
たったの二言。言えばそれで良いはずなのに。
迷惑を、かけたくない。
自分のせいで、流風まで歩くスピードを落とさなければならないのが、嫌だ。
だって、私が流風に合わせれば良いだけなのに。
流風が私に合わせる必要なんて、ない。
速いよ、の一言さえ言えない私に、流風は呆れたかな。
「……ごめん」
そう思って呟くと、流風は突然足を止め、くるりと振り返った。
その拍子に彼の黒い髪がゆらりと揺れ、綺麗な肌に影を落とす。
私も少し開いていた流風との距離を詰め、立ち止まった。