ありがとうございました、と若い店員さんが、丁寧な礼をする。
私も何となく小さく礼を返し、後ろを振り返った。
きっちり自分の分だけのお金を私に渡し、外を見ながら待っていた流風が、目だけを私に向ける。
私は目で行こ、と合図してから、スライド式の木の扉を開けた。
後ろから流風が、するりと体を滑り込ませてくる。
扉から手を離すと、勝手に閉まってくれた。だいぶ古いらしい。
「流風はこの後もう帰る?」
昼過ぎに荷物が届くことを思い出して、彼の予定を尋ねると、逆に「何で?」と聞き返された。
「暇なら荷ほどき手伝って欲しいなって思って」
面倒、という二文字が流風の表情から伝わってくる。遠慮も何もない。
そんなに嫌そうな顔しなくても、と思うのは、東京で過ごした7年間が、「空気を読む」ことの大切さを強引に教えてきたからだろう。
流風にも東京で過ごした時間があるはずなのに、どうしてか彼には全く吸収されてないらしい。
でも確か、流風の中学生の頃の成績は、興味がないものはなかなか上がらなかった。
同じ教科でも、単元によって成績が急激に変化してたから、彼の通知表の数字は、いつも落ち着いていなかったのを覚えている。
きっと流風の中で、「空気を読む」ことは、興味のないことに分類されたのだろう。
「……暇、だけど」
流風は仏頂面で、すねた子供のように答えてきた。
予定があるとか嘘をつけば、荷ほどきから逃れられただろうに、素直なところが流風らしい。