「記憶の中の流風と、今の流風が変わってなかったから」


やっぱり流風は流風だって思えたことが、何より嬉しかったんだ。


──私は、そんな風になれないから。


そんな暗い気持ちを隠して笑うと、流風は盛大に顔をしかめた。


「その不細工な顔やめろ」


想像通りの──いや、想像よりも数倍酷い言葉が、彼の口から吐き出される。

私は、ちょっと、と声をあげた。


「さすがに女の子にそれは失礼!」


むう、と頬をふくらませると、流風がごめんごめん、と笑う。


「──でもさ」


まっすぐな流風の瞳が、私を見た。





「変に取り繕うより、今の表情のが絶対良いよ」




さらりと、何でもないことのように。

そんなことを言われたらもう、取り繕えなくなりそうな。



──どうして、気付いてくれるの。



少なくとも、そんなことに気付けるくらいに、私は流風に気にかけてもらえているのだろうか。



期待してしまう。




流風は何事もなかったかのように、ガラスのコップに入った水を、口に流し込んでいた。


──7年前と、重なる。



思わせぶりな態度をとったかと思えば、何もなかったような態度をとって。


照れ隠しなのか素なのか、その真意は今も昔も聞き出せないまま。



「俺は、昔の桜華のが好きだったな」



濡れた彼の唇から紡ぎ出される「好き」の意味は、尋ねられないまま。



「今の私は好きじゃないってことー?」


「……そうじゃ、ないけど」



珍しくはっきりしない「そうじゃない」の意味を聞くことは、叶わないまま。





7年前より、遠くなってしまったであろう、流風との距離。

7年前と変わってしまった、私の心。

7年前と変わってしまった、懐かしい風景。




でもまだ、変わらないものもある。


目の前で軽くコップを振り、カラカラと氷をもてあそぶ、子供じみた彼の心。



──そして、何より。



青春時代を思い出すかのような、彼に抱く、淡い恋心。




──きっとまだ、私は流風のことを。








お会計しようか、と流風が立ち上がった。