「流風って、お蕎麦好きなの?」


顔を上げて聞くと、流風も蕎麦から目を上げて、私を見た。


「普通に好き」


何とも言えない答えが返ってくる。


「じゃあ何が一番好きなの?」


聞いてどうするんだ、というような質問。
どうせ聞いても、忘れてしまうような質問。

それでも純粋に、知りたいと思うんだ。


流風は考えるように目を伏せ、たっぷり間を取ってから、はっとしたように目を上げた。


「グラタン!」


元気良く言い放った彼に、思わず苦笑が漏れる。


中学生のときに開かれた流風の誕生日パーティーで、チーズケーキが真ん中に居座っていたのを思い出した。
グラタンに限らず、チーズが好きなのかもしれない。


「じゃあ嫌いなものは?」


楽しくなってきて、また質問を投げかける。


もっと流風のことを知りたい。思い出したい。



嫌いなもの、好きな色、動物。
いたずらに好きなタイプを聞いてみたり、思い出話をしてみたり。


離れていた時間を埋めるかのように。


当時の先生、クラスメイト。

忘れていた日々が、鮮やかに思い出される。
周りの目なんか気にせず、何も考えず、自然で取り繕わない、無邪気な自分が。

変わってしまった自分を、改めて実感した。



「……私ね、嬉しかったんだ」


蕎麦のつゆを最後まで飲み干し、呟く。

とうの昔に食べ終わっていた流風が、何言ってんだ、という表情で私を見た。


……流風は、意外と考えていることが表情に出る。


初対面のとき、第一印象はクールな人、だった。
でも話すたび、接するたびに、彼のイメージはがらりと変わっていった。


はっきりと物を言うのは、人を寄せつけたくないからじゃなくて、自分の気持ちに正直なだけ。

聞き手に回ることが多いのは、物静かなわけじゃなくて、話題を探すのが面倒なだけ。

口数が少ないのは、口下手なわけじゃなくて、その話に興味がなかっただけ。

大人っぽいかと思えば子供っぽいし、興味がある話には楽しそうに乗ってくる。


流風はただ、自分の気持ちに従っているだけだ。



変わってしまった私と違って、流風は今も変わらない。


決して取り繕わない彼は、誤解を生むことだって多いはずなのに、どうして。



なんでそんなに、自分を強く持てるの。





誰かに合わせないと、取り繕わないと生きていけない自分が、惨めに思えてくる。