それから少しして、さっき注文を聞いてくれた店員さんが、お盆を持って歩いてくる。
「お待たせしました。天ぷら蕎麦二つです」
店員さんは、一つを私の前に置いて、もう一つはどこに置きましょうか、と聞いてきた。
一人で二つ食べるわけないのに、と思いながら、流風の前を手で示す。
念のための確認かな。ずいぶん丁寧なお店。
その店員さんは、流風の前に蕎麦を置くと、一礼して戻っていった。
「わあ、美味しそう!」
「だな!」
二人してはしゃいだ声をあげ、割り箸を割る。
ほわほわと白い湯気を出す蕎麦は、こんがりきつね色に揚げられた天ぷらのおかげか、二割増しで豪華に見えた。
左手をどんぶりに添え、箸で蕎麦をすくう。
細い麺が、キラリと天井の蛍光灯の光を反射して、輝いた。
ぱくりとかぶりつき、麺をすする。
思っていたよりもちもちとした麺に、しなやかな舌触り。
ネギの香りと、濃いめのつゆの香りが、微かに鼻をくすぐった。
甘めのつゆが麺によく絡んでいて、美味しい。
つゆに浸かっていた天ぷらも、甘さが染み込んでいて、美味しい。とにかく美味しい。
「美味しい…」
心の中でも言葉でも美味しいしか言えなくなっていると、かまぼこをかじっていた流風が、だな、と無邪気に笑った。
また心臓が暴れ出し、私は髪を耳にかけるふりをしながら、うつむく。
本当に、流風の不意打ちはずるい。
当の本人は気付いているのかいないのか、麺をひたすらすすっていた。
──7年前も、そう。
私の気持ちに気付いているのかいないのか、思わせぶりな態度をとったかと思えば、素っ気なくなったり。
今思っても、からかわれてたような気もするし、素でやられてたような気もするし。
今も昔も、流風のことはよくわからない。
好きだったけど、何も知らなかったような気がする。


