「流風は中学の頃、よくこの店来てた?」


私と店員さんのやり取りを、途中から興味なさそうに頬杖をついて聞いていた流風に、声をかける。

窓の外に向けられていた端正な顔が、私の方へ向いた。

思い出すように沈黙し、それからくい、と首を傾げる。


「来てはいたけどよくではない…と思う。あんまり覚えてないや」


そういう子供っぽい仕草が似合う成人男性なんて、なかなかいないんじゃないかな。


私はそっか、とだけ返し、スマホを取り出した。



久しぶりに会う同級生。しかも昔好きだった人。

何だか少し気まずくて、何を話せば良いのかわからない。


特にメッセージも届いていないスマホの画面を何となく眺めていると、視線を感じた。

目を上げると、流風の黒い瞳と目が合う。

よくもこう、女の子を恥ずかしげもなく見つめられるものだ。


そんな流風から目をそらして、もう一度スマホに目を落としたところで、私はあ、と声を上げる。


「連絡先、交換しよ」


中学生の頃、スマホを持っていなかった私たちは、連絡先も知らないまま、離れることになった。
7年前みたいに、もう流風と会えないかも、という不安は抱きたくない。

少し緊張して提案してみると、流風は困ったように視線を泳がせた。


「俺、スマホ持ってなくて」


持って、ない?


「あ、家?なら…」


「じゃなくて。スマホ持ってないんだよ。ガラケーも持ってない」


その言葉が信じられなくて、私はえ?と声を漏らした。


「不便じゃない?誰とも連絡しないの?」


この歳で持っていない人なんて、いるのか。

連絡先を交換するのが嫌だから、という口実だったらどうしよう、と思いながら聞く。


「別に……いらないかなって。そんな不便じゃないよ」


どこか迷ったような、口調だった。

それを不思議に思っていると、流風がふわりと微笑む。


「言いたいことあるなら、言いに行けば良いし」





──あぁ、流風だ。

ずっと変わらない。流風は、流風だけは、ずっと。




私は、連絡先を断る口実じゃなくて良かった、という安堵と、流風が変わっていない、ということへの嬉しさが混じった笑顔を浮かべた。