「降りよう。」

ドアを開けた先生は、後部座席に回って荷物を取った。

あれって…さっき寄ったコンビニの袋だよね?

車を降りて、土手に行くと

「はい。」って渡されたのは………花火。

子供の時以来の手持ち花火にテンションが上がって

眠気なんて吹き飛んじゃった!

「ご機嫌だねぇ~」

「うん!」

はしゃぐ唯を見ながら、優しく笑ってくれる。

暗くなるには、まだまだだけど…

それでも

ライターで火をつけると

赤や黄色、オレンジと…まばゆい光りが飛び出して

とってもキレイ!

「こっちにおいで。」

肩を寄せられ、花火を持って

パチリ!

二人の夏の想い出…一個目だね。

これからいっぱい増えていくはずの、写真たちを思い浮かべて笑みがこぼれる。

「ねぇ~唯ちゃん。今度の花火大会は…浴衣が良いなぁ~」

浴衣かぁ~。

あることはあるけど……

一人じゃあ着れないなぁ~。

リクエストに答えたいけど…お母さんが家に居るとも思えないし……

ムリだよねぇ…………。

期待させても悪いから…正直に話すと

「大丈夫!浴衣さえあれば良いから。
下駄も忘れずに、用意しといてね。」

まさか!先生が着せたりしないよね??

さっきの性教育の件もあるし…

思わず疑いの目で見てたら

「あぁ!まさかオレが着せるって思ってる!?
ナイナイナイナイ…………
いくらなんでも、そんなことはしないから。
ちゃんと、女の人が着せるから安心して!」

なんだぁ~良かった。

「ホント、唯ちゃんの目にうつるオレって……
どんだけスケベなんだろう?
あれ程待つって言ってるのに…」

ちょっとイジケ気味の先生に、笑ってしまった。

おしゃべりしてる間に花火は進んで………

シュルシュルシュルシュル…………………………パァン!!

「キャ!!」

……………………………………………………。

大きな音は……ネズミ花火!

「もぅ!!」って怒るより先に

3つもこっちに向かってる。

「先生~」

逃げる唯を笑いながら、ドンドン投げてくるの。

「もぅ!!!」

怒ってるのに…

「ごめんごめん。
だって、唯ちゃんを大人にするって約束したからね。
大きな音も苦手だから、心を鬼にしてやってるんだよぅ~
オレだって……
可愛い彼女にするのって……辛いんだよ~」

ウソ泣きのマネまでしながら、笑ってるし…

ホント、二人の時の先生って…いじめっこだよね。

プイッて拗ねたら

「あ~ぁ。
この夏は、偏食も直さないといけないし…大変だぁ~
トマトにピーマン、ニンジンも食べれるようになろうねぇ~」

ええっ!!

もしかして………大人にするって…そっちなの??

まぁ~そっちがどっちかは……分からないけど。

意味の分からない会話のまま

花火はドンドン進んでいって

………ラストはやっぱり、線香花火。

「おいで。」

土手にぺったりお尻をつけて

先生に抱っこされてする花火は、恥ずかしいけど……

恋人っぽくて、ちょっと嬉しい。

唯の肩に、先生の顔が乗っかってて……くすぐったい。