呆然とする唯に

「ちょっと…ドライブしよっかぁ~」って

明るい声をかけてシートベルトをはめてくれた。

ゆっくりと動き出す車は…

何処を走ってるのか分からないまま、ただグルグルと夜の景色が流れていった。

………………やっぱり……本当だったんだ………。

お父さんには…唯達より……大切にしたい人がいるんだ…。

家族が壊れてしまう。

お父さんが知らない所に…行ってしまう。

唯のお父さんじゃあなくなってしまう。

………………………………………………………………。

色んなことが浮かんで…視界がぼやけ始めた時。

唯の右手を…先生の左手がそっと包んでくれたの………。

「大丈夫。」

たった一言なのに…少し心が、落ち着きを取り戻していく。

先生の手から伝わる温もりは…

"オレがいるよ。"って伝えてくれてるような気がする。

どれくらい走ったのか…

気が付くとまた、いつもの見慣れた風景が広がっていた。

「もう少し時間がある?」

優しい問いかけに頷くと、近くの公園の駐車場に車を止めた。

「降りる?」

先生の声に誘導されるまま、助手席のドアを開けると

こちら側に回って来てくれた先生に手を引かれる。

何処からか聞こえてくるナイターの中継の音や……生活の声。

うちも、ほんの少し前までは…こんな当たり前の音が聞こえてたのになぁ~。