「碧、茉希,急いで~」

廊下の向こうで聞こえるいつもの早坂先生の声。


「あと何秒ですかぁ?!!」

走りながら全体力を使って声を出す。


「チャイムまで、10.9…」

先生の65才のおじいちゃんとは思えない張りのある声が、
私達に地獄へのカウントダウンを始める。

「碧ペースあげてっ!!」

「茉希が早すぎんだよおおお!!」


「5.4.3…」


ヤバいヤバいヤバいヤバい((ry

すぐそこに机がある、急げ碧!

かーらーのーっスライディング着席が、、






成功しなかった。

新学期が始まり、碧がいままで座っていた席は違うクラスメイトの席になっていた。




…___キーンコーンカーンコーン


「はーい。碧、放課後美術室、清掃ね~」

なんで早坂先生嬉しそうなんですか。


というか、、ん?

清掃って私だけ??



茉希を探してみると、ドアから一番近い席にちょこんと茉希が座っていた。

そうだよ、茉希の名字は『青池』だったよ。

佐倉なんて名前の男と結婚した母親が今は憎い。




「はいっ、授業を始める。皆久しぶりだね。ご存知の通り、私、早坂康作は、今年度も美術を担当します。よろしく。」


早坂先生は、ずーっとここの高校に努めているおじいちゃん先生だ。

同時に美術部で、たった一人の顧問も努めていて、頼れる先生。


それで、新しい先生は??



「知ってる人もいるかな?今年度から新しい先生が入ります。アイハラ先生、来て下さい。」

「はい。」


そう言って、『アイハラ』と呼ばれた先生は準備室から出てきた。



「はじめまして、アイハラケイトです。漢字はこうやってかきます。」



そう言って黒板に『相原慧人』とクセのあるなんとも言えない字で名前を書いた。



男性にしては身長はあんまり高くないけど、スラッとしている。

謎に髪がサラサラしてて、それなりに整った顔立ち。

それなりに好印象かも。


へぇ、この人か。


「ちなみに俺は水彩画専攻でした。水彩画好きなやつ、いる?」


「水彩画」という言葉を聞いて、少し胸が痛くなった。

先生には関係ないのはわかってるけど、あまり話は合わなそうだな…

それに、残念だけど、そんなやつはうちのクラスには居ません。



そんなことを思っていたら、クラスのお調子者男子が余計なことをしてしまった。

「せんせ~ここに居る佐倉碧ってやつ、水彩画めっちゃうまいっすよ!!」


…こいつ、ばかなの??

胸が痛くなる。


「佐倉…佐倉さんは、もしかして美術部の??」

「は、はいそうですけど…」

「早坂先生と顧問なんで宜しくね。」


茉希に視線で助けを求めると、茉希もこちらを心配そうに見つめていた。