紗南が顔を上げない……。
駆け寄ると、紗南は小さく息をしていた。でも、手は胸の辺りへ行っていて、心臓発作を起こしたことが分かる。急いで紗南のポケットを探り、ピルケースを出した。発作を起こした時用の薬を出して、舌の裏へ入れた。発作の時は、舌の裏に入れるのが最適だとお医者さんに教わったから。
口を閉じさせたら、紗南を背負った。なるべく早く、病院に行かなきゃ。保健室まで走って、勢いよくドアを開けた。保健室の先生は驚いた顔をしたけど、瞬時に状況を理解して救急車を呼んでくれた。
紗都に言わなきゃ。確か、苦手な古文の補習を受けてたはず。スマホを取り出そうと思ったけど、どこにも無い。そうだ。部室のロッカーに置いてきたんだ。
「先生、紗南のことお願いします。私、紗都に知らせてきます!」
保健室を飛び出して、1年のフロアへ行った。
いきなりドアを開けたので、紗都も先生も驚いていた。
「紗南が!」
そこまで言った時点で紗都は立ち上がった。
「先生、補習は今度受けます。必ず受けるので、今は妹のことを優先させてください」
紗都はそう言って、私の方へ向かってきた。
「和彩、ありがとう。紗南はどこ?」
「保健室。救急車呼んだ」
私は、走り出した紗都を追いかけた。