教室にアキを置いて1人、敵の陣地へいざ行かん。なんつって。

階段を上り終え、迎える三下共(さんしたども)のうるさい口と視線を潜り抜ければ、アイツの取り巻きが「遅かったな。」と待ち構えていた。

(忘れていた、なんて素直に話したところで、コイツらとは笑い話にもならねえんだろうな。)

そんな事を考えながら、扉へ手をかける。

ガラガラと軽い音を響かせて開けたソコには、薄暗い部屋に上等なソファーとテーブル、そして十数人の3年と思わしき奴等が、たった一人を囲んで俺へと視線を集めていた。

学舎を欠片も感じさせないそこは、チカチカと消灯と光灯を繰り返す電気が、更に嫌な雰囲気作りに一役かっていた。

(行かねばならぬ、やらねばならぬ。ってか。)

そんなことを鼻で笑えば、自分達が笑われたと勘違いしたバカな連中は、いっせいに眉間にシワを寄せ俺を睨む。

ガンをきかせる数人は攻撃しやすいように手近にあったものを掴んで、ゆっくりと距離を積めて来た。

「はーい、ストップ。」

薄暗い部屋とは不似合いな軽い声とパンっと鳴り響いた拍手。

今にも飛びかかって来そうだった奴等は、ソレを聞いたとたん主に従うように自ら下がっていった。



ーーさあ、大将のお出ましだ。



広いソファーに1人で腰掛け、周りには柄の悪い奴等が俺を見下すように囲んでいる。ヤニをポッケから取り出せば、すかさず火がソファーに座る男へ差し出された。「スーっフーっ。」と、ゆっくり深呼吸でもするように煙を吐き出したこの男こそ、俺を呼び出した張本人だ。

「よく来たな千草、久しぶり。」

(あー…今すぐ帰りたい。)

「お久しぶりです、"若頭(わかがしら)"。」

本音と建前の使い道なんてこんなときにしかない。そんな的はずれな事を考えては、教室の隅でただ一人、熱い視線を向けてくる"狂犬"に敬意を表し、千歳(ちとせ)の前に用意されたパイプ椅子へと腰かけた。



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