まあまあ。とアキを宥め、ポンと肩を叩く。

ため息をついたアキは、また俺の手を払い、尊敬とは逆の視線を向けてきた。

「で、マジでなんなの。」

「いやーんアキちゃん目がこわぁい。ちーさん震えちゃーう。」

「キモいウザい帰る。」

「待て待て。」

話にならない。と席を立ったアキを再度無理矢理座らせ、頭を撫でる。取り巻きも見ている所での行為に、羞恥を耐えられなかったアキは、大きな目を更に大きく見開いて顔を真っ赤に染めた。

「30秒以内で説明しろ。」

照れた余韻を感じさせるほど、ほんのり頬を薄紅色に染めたアキは、スマホとイヤホンを取りだし「言う気がないなら聞かないぞ。」と態度で示してきた。

だが、ここだけの話。今まで引っ張ってきた俺も、あの狂犬の事をよく知っているのかと聞かれれば存在を認知してる程度な訳で…。

「"アイツ"に昔、なんとなーく聞いてただけだからなあ。」

数年前の記憶を引っ張り出す。
頭に過る映像には、まだ幼い"アイツ"の後ろをついて回る子供の姿。

「アイツ…?」

「そ、アイツ。お前もよく知ってる奴だよ。」

「…。」

"アイツ"が誰を指すのか察したのか、落ち着いたアキの表情が、今度は嫌悪へと変わっていく。

「あ、そー言えば…ちょうどアイツに呼び出されてたんだっけ。」

元々喧嘩が弱かったアキが、No.2にまで力をつけた理由。

「は?聞いてないんだけど。」

アイツのお陰でアキは俺のそばを離れなくなった。

「いやー思い出せて良かった良かった。」

三年を率いるアイツ。

「ちょ、千草!」

この東校の現頭(トップ)。

「ちょっくら行ってくるわ。」






ーー筧千歳(かけいちとせ)。






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