Sweet break Ⅲ

『いい加減にしろよッ、朱音!』

唐突に発っせられた言葉と同時に、関君の左手によって、自分の膝に置いていた右手首を強く掴まれる。

『ッ!!』

咄嗟に運転席の関君を見れば、いつものクールな彼らしくなく、完全に冷静さを欠いた、どこか切羽詰まった表情をしていた。

『少し黙って、俺の話も聞けよ』

掴まれた右手首は、先月のホワイトデーに、会議室に連れ込まれた時とは違って、直ぐに離してはくれない。

むしろ、大きな手で包まれた手首は、強い意志で離すまいとしているようで、僅かに動かすことすらできない。

『関…くん?』
『先に言っておくが、俺はお前ほどこの手の経験が無いわけじゃない…多くは無いが、それなりに女性と交際してきたつもりだ』

いきなりグサリとくるようなことを言われ、”そんなことわかってるよ”と、口には出さず心の中で答えた。

『当然、俺も男だし、人並みに好きな女に触れたいとも思う』
『だから、私にそういう魅力が無いってことでしょ』

黙っていられず、声音を上げると、『そうじゃない』と即座に否定される。

『俺がお前に触れないのは…』

その先の言葉を続けることに抵抗があるのか、一瞬言い淀むと、小さな溜息と共に、続けてその理由を口にする。

『触れた瞬間、お前に拒否される気がして…怖いからだ』

右手首を掴む関君の手が、また強くなった気がした。