Sweet break Ⅲ

『ねぇ…関君』

車のドアに手をかけていた関君が、私の声に振り返る。

緊張しているからか、視線は握りしめた自分の手元に落とし、思い切って、声に出してみた。

『私…あの、もう少し時間…平気なんだけど…な』
『………』

自分なりに最大の勇気を振り絞り、遠回しに”まだ帰りたくない”という意志を伝えてはみたものの、すぐに返答がないので不安になり、ゆっくり顔を上げると、驚いたようにこちらを見ていた関君と視線が合う。

あれ？また変なこと言っちゃったかな？

それとも、もしかしたら、うまく自分の気持ちが伝わらなかったのかもしれない。

奮い立てた勇気はあえなく消沈し、気まずくなった場の空気を取り繕うことにする。

『え…っと、ゴメン、そうだね、明日仕事だし、ダメ…だよね』

『…倉沢』

不意に、凄く真面目な顔で、じっと見つめられ、ドキリとする。

『なら、今から、俺の家…来るか？』
『…え？』

唐突にかけられた想定外の誘いは、一瞬にして私の心拍数を押し上げる。

こんな時間から一人暮らしの男性の部屋に行くなど、いくら恋愛初心者でも、その意味が、わからない訳がない。