「え?今のが素のセリ?いいね〜そのギャップ、萌えるわ〜ますます好きになっちゃった」
「あ、あのね〜!」
怒りが爆発寸前の所でカナちゃんからの「黒川さま、タクシーが到着しました」との助け舟が。
危なかった……我を忘れる所だった。
スタスタと歩く後ろ姿、苛立ちを抑えながら見送る。
立ち振る舞いも横顔もキレイなのがムカつく。
一丁前にゴールドカードなのがムカつく。
最後にまたセリって呼んでたのがムカつく。
遠くで見ていたら彼は最後に私の方を向き、「え〜見送ってくれないの?寂しいな」って患者が誰も居ない状態だからかやりたい放題してくれている。
かなり引きつりながらの営業スマイルで仕方なく見送る。
初めての状況に違和感を覚えながら最後の最後で気を抜いてしまった。
二重になっている出入り口。
クリニック側の自動ドアが閉まった瞬間。
クルッと踵を返した彼にすぐに気付けなくて、無防備だった私の頬に顔が近付いて………
一瞬何が起きたのかわからなかった。

