「俺ずっと待ってたんだけどな〜連絡来るの」
診察台に座り足をブラブラさせて顔を覗き込んでくる。
マスクと手袋を外して「じゃあまた痛んだら来てください」とドアを開けてお帰りを促す。
歯科衛生士と助手にもアイコンタクトで戻ってもらった。
「じゃあ今夜連絡くれる?俺あんまり待つの好きじゃないけどセリなら待てる」
目の前に立たれるとどうしても距離が近くなる。
意地でもドアを全開にして逃げ場を確保し、他のスタッフらにも見える位置に。
「勘違いしてるならはっきり言いますけど、ここはそういう場所でもないし私は歯科医師であってあなたは患者さまです。それ以上でもそれ以下でもありません。一生待っていただいてもプライベートで私から連絡する事はありません」
「はっきり言うね〜初めてフラレた〜」
大袈裟に項垂れる彼を一緒に見ていたカナちゃんと目が合う。
暗黙の了解で同情の眼差し。
しゃがんだままウルウルの目で見ないで。
子犬系は苦手なのよ。

