静かに立ち上がり彼の前に立つ。
さて、少し黙らせてあげようか。
ゆっくり顔を近付けると大抵黙る。
両手を頬に添えて「あーんして」と言ったらイチコロよ。
ほら、すぐ口を開ける。
やりたくないけど奥の手なのだ。
器具を使って順番に軽く歯を叩く。
「痛かったら言ってくださいね」
黙って頷いて素直に聞いてる。
施術を終えた途端また喋り出すから本当に呆れた。
まぁ、施術中は黙らせたいだけですが。
「で、どうなの?俺とデートしてくれんの?」
「しません」と笑顔で断る。
「ちょっと前回より噛み合わせ強くなってるかな?って思います。心当たりありますか?」に対してニヤつきながら首を横に振る彼。
「黒川さんの場合……」
「ダンでいいよ?俺もセリって呼ぶし」
「黒川さんの場合、虫歯はありませんし歯周病もありません。いわゆる噛み合わせの問題でストレスとかもあるとは思いますが……」
「セリと会えない事がストレスかも〜」
完全に私のリアクションを楽しんでる様子。
相手にしない方がいいのかも。
イライラするけど顔に出すな私…!

