「さて晴ちゃん。」

「なぁに?急に改まっちゃって。」

「うん?体温はかろうか?」

「え、なんで?」


私の顔、わかりやすく引きつったと思う。


「泣いちゃったからな、体温上がってる気がするよ。逃げるのは認めないからね。」


まっさらな笑顔で言われると逆に怖い。


「はぃぃ!」


…逃げきれなかった。

そのまま体温計を渡されて脇に挟む。
でもこの体温計は診察室の体温計だからいつも渡されるものよりよっぽど早く鳴る。

言ってる間にもう鳴ってしまった。


「はい、いくつ?みせてー。」


体温計を見てため息が出た。


「ため息ついてないでー。それちょうだい?」

「はい…。」


渋々渡す。


「あー、やっぱりそうだよねぇ。」

「え、予想の範囲内?」

「もちろん。体感8度超えてたもん。それに朝は7度台だったって言っても8度手前だったじゃん?」

「そっかぁ、せっかくちょっと下がってたのになー。」

「大丈夫、今晩もしっかり寝たらまた明日の朝には下がってるよ。」

「ほんとに?」

「うん、本当。だから、聴診させて?」

「えー…。」

「えー、じゃないよー。さっき泣いちゃったし、喘鳴も酷くなってたら苦しむのは晴ちゃんだよ?」

「そりゃ、苦しいのは嫌だけど…。」

「うん、だから確認させて?」


疑問形で聞いてくるけど、実際はもう琴美先生は聴診器を耳にかけて、私の服の中に手を伸ばしている。


ここまでされると私はもう話せない。だって、声を出すと凄くうるさいらしいから。


「あっ。」


だけど私は声を出してしまった。


「わぁ!何?!」

「あ、ごめん。」

「いや、いいけど…。」

「あのさ、やっぱり聞かせてくれない?」

「へっ?」

「いや、だから、その…。」

「あー、もしかして晴ちゃんの肺の音?」

「うん、そう…。」

「いいよ。だけど先に一通り聴かせて。ちょっと待ってて。」

「わかった。」

「深呼吸しててね。」


返事は返さずに、深呼吸することで応えた。


「Good girl.」


琴美先生は満足そうに笑って聴診を続行し、なんとか終了した。