「そんなに否定しなくてもいいじゃない。私だって勉強すれば少しは使えるようになるかと……」


と言ったら「そういう問題じゃない」とはね除けられる。



「高柳さんには婚約者がいらっしゃいますが、その人がもし今日の透…………矢野さんと同じことをしたらどうですか?

下着同然の服装で酒の酌などをさせられ、全身を舐めるように見られても、いいようにベタベタと触られて、それでも無理して媚びるような笑顔を浮かべる恋人を見ても、平気なんですか?」


「まさか。ありえないよ。その場にいた奴を全員張り倒しても足りない。」


「…………俺にはその苦渋を味わえと、その口で言ってるんですか?あなたともあろう人が」


真嶋はさっきまでのムスっとした様子ではなくて、針のような目をして本気で怒っていた。


そんな些細なことを怒ってくれているとは想像していなかった。ちょっとしたセクハラなんかどうでもいいと思うくらい、真嶋が抱えている仕事はヘビー級だったから。


高柳さんはモニタの向こうから真嶋ではなく私に話しかける。


「矢野さん。今日のはどう見ても、………実際には音声を聞いてたんだけど、あれはやり過ぎだよ。

俺はナツくんの仕事を見届けた上で彼を説得するよう依頼したはずだ。ホステスに扮して潜入するとは思ってなかったから正直面食らった。

度胸があるのは良いことだけど、あれではナツくんだって心配するよ」


「はい。………すみません。」


切々と諭されて、思わず頭を下げる。


「まあ、矢野さんが暴走するのはある意味しょうがない状況だってわかる。

問題はナツくん、君の方だ。」


「何を」と言いかけた真嶋をじっと見て「俺も怒ってる」と言った。少しも怒ってるようには見えない、優しい表情だ。



「君が不祥事の捜査をたった一人でやろうとするのは、誰にもやらせたくない仕事だと思ってるからだろ。」


「当然です。危険もあり、剥き出しの憎悪と対峙する。誰かを巻き込んでいい仕事ではありませんよ。」


「そうか。では、なぜ君だけはいいんだ?

今日は矢野さんのおかげで初めて君の様子を聞いたけど…………すごく嫌な気持ちになったよ。

仕事の効率と確実性を取るために、自分を切り捨てるようなやり方はするな。」


「オーク内部の仕事については口出ししないで欲しい。高柳さんには関係が、」


「あるさ。これは友人としての願いだ。口出しするくらい良いだろ。

俺も嫌な気持ちになったけど、矢野さんが現場で感じたのはそれ以上のはずだ。あんな方法は止めろ、と言っても聞かないだろうから、君を止める人が必要だ。

一人でいる限りナツくんは仕事のやり方を変えないだろ」