「健琉くん、芽以は見つかったのかね?」

健琉はマンションに芽以を閉じ込めると、白木家のリビングを訪れた。

「ええ、見つけましたよ」

「健琉くんには申し訳ないことをしたと思ってる。しかし、現状では婚約を破棄しなければ美術館は立ちゆかない。私はなぜ酔っぱらってあんな文書を交わしてしまったのか,,,」

頭を抱える白木剣士に健琉はにこやかに声を掛けた。

「弁護士には相談されましたか?」

「あ?いや、芽以がいなくなって動揺してしまってね。そんなことも忘れていた。あの子はこれまで私達両親に逆らったことはなかったんだ,,,」

剣士は項垂れてため息をついた。

この三日で少しやつれたようで、目尻には皺がにじんでいる。

「昔ならともかく、今は親の約束だけでは結婚できません。本人同士の意思が尊重されると法律にもうたわれているんですよ」

健琉は長い足を組んで前屈みになって顎に手をあてて笑った。

「少なくとも桃山靖国さんと芽以さんは結婚の約束も婚約もしていない。芽以さんは私との結婚を望んでいます。そこに親の感情は関係ないんですよ」

「しかし、そうなると健琉君と芽以の婚約も成立しないんじゃないか?」

そう、健琉と芽以の婚約も親が決めたものだった。