「何か動きはあったか?」

夕方というのに疲れて眠ってしまった芽以を横目に、健琉は裸の上半身を起こしてベッドから出ると、スマホを手に取りリビングへ移動した。

電話の相手はもちろん、IT社長の松原真那人だ。

「ああ、桃山家以外に美術館の補助金を出している資産家にも声をかけて支援を打ち切るように呼びかけている。運営が滞ってきたところを見越して、美術館を買い取って所有権を行使するつもりのようだ」

「なんであんな流行りもしない美術館にこだわるんだ?俺の親父のように刀剣好きなのか?」

「いや、桃山自体は刀剣には興味ない。興味があるのはその刀剣の持つ底知れぬ商品価値だけだ」

白木剣士は良くも悪くも金儲けに興味はない。

日本男子として、純粋に刀を愛し敬っている。

だから、あちこちの企業から商談を持ちかけられても、話すら聞こうとしないのだ。

桃山家、いや、どちらかと言うと、桃山靖国は実業家としての野心で、芽以や白木家との婚姻関係を利用しようとしている。

婚約を断っても、受け入れても桃山家は得をする。

桃山靖国はそんな勝ちの決まった博打に、芽以を利用しようと謀ごとを仕掛けてきたのだ。

「いづれにしろ、この謀ごとには穴がありすぎる。何においても詰めが甘い」

そういう健琉は、周到に動き始めた桃山家に、すでに先手をしかけようとしていた。