"健琉さんは、毒舌だけど丁寧に仕事の流れを教えてくれたし、本当は優しい人だと思う。"

健琉に "近い!" と怒られながらのオリエンテーションが終った頃には、見計らったかのように昼食の時間になった。

「白木さん」

同じ商品開発部に配属となった、芽以の同期、"中野遥香"と"沢城優太"が、遠慮がちに声をかけてきた。

「行けよ。俺も休憩入るから」

健琉は、チラッと二人を一瞥しただけで書類に視線を戻して言った。

同期二人の指導者である先輩方も、緊張している新人に気を遣い、食事に行くよう促したらしい。

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお先に失礼します」

芽以は、健琉に向かって丁寧にお辞儀をすると、部署の入り口で待つ同期のところに駆けていった。

社員食堂で空いている席を見つけると、3人はテーブルに着いた。

「それにしても、芽以ちゃんの指導担当の黒田さんってイケメンだよねー」

同期の中野遥香がうっとりして言った。

芽以は水の入ったコップを両手で握ったまま、コクンと頷く。

「クールで優しいけど、どんな美人からのプライベートな誘いにも乗らないんだって。」

「女性に興味ない、って噂もあるらしいよ。ほら、あの人」

と、芽以の隣に座る優太が食堂の入り口に入ってきた二人の男性を見つけて、芽以に目配せをした。

一人は黒田健琉。もう一人は,,,

「黒田さんと同期で営業部のエース里中葵生(あおい)さん。二人はできてるって話。」

優太は芽以の耳元に片手を添えると、そう囁いてクスリと楽しそうに笑った。

里中は、やや長めの前髪にソフトパーマをかけたフワフワ髪のやや童顔なイケメン。

身長は170cm位で、健琉と並ぶと禁断のカップルのようにも見える。

"健琉さんがあの人のことを好きなら、私も陰ながら応援すべきなのかしら?"

芽以が少し離れた席に座る健琉と里中に見入っていると、メニュー表から顔をあげた健琉と目があった。

「芽以ちゃん、何にする?」

芽以は、健琉と里中に対して、遠巻きにお辞儀をすると、

横から芽以の顔を覗き込んでいる優太に呼ばれていることに気付いた。

"昼休み時間がなくなっちゃう"

"早く注文の品を決めてしまわねば"

「優太くんは何にする?」

女の子みたいに可愛い容姿の優太に、芽以は全く警戒せず、弟とするよう顔と顔を近づけてメニューに見いっていた。