エレベーターを下り、社の玄関を出て数10m行ったところで、優太に手を引かれる芽以を見つけた。

手が繋がっている様子を見ただけでも、カッとなって理性が効かなくなりそうだ。

「待てよ、沢城」

健琉の呼び掛けに、驚いた芽以と優太が振り返った。

「俺が送る」

「だから,それがパワハラだって,,,」

「こいつのご両親と知り合いで、よろしく頼むと言われている」

嘘ではない。

婚約した日に、芽以の父親である白木剣士に

"よろしく頼む"

って言われているのは本当だ。

両親の話が出たところで、優太は一瞬押し黙ったが

「だけど今日から芽以ちゃんが電車通勤になったこと、知らなかったんでしょう?頼りにしてるなら伝えてきそうなもんですけど」

と、強気で言った。

今度は健琉が押し黙る番だった。

しかし、ここで言い負けるわけにはいかない。

「白木さんも俺に遠慮したんだろう。仕事が立て込んでたし、昼食も別だったから、な?白木さん」

健琉は芽以にチラッと視線を送った。

「は、はい」

芽以が頷く。

健琉は一瞬間を置くと、

「お前が選べよ。どっちに送ってもらいたいか」

といった。


健琉の態度はいつも通りの俺様ではあったが、瞳の奥には、芽以の気持ちを推し量るような不安気な表情が見え隠れしている。

そんな健琉の気持ちを汲み取ると、芽以はためらいなく優太に告げた。

「ありがとう。沢城くん。だけど、私、今日は黒田さんに送ってもらいます」

ここまではっきり言われては、優太も反論しようがない。

優太はゆっくりと手を離すと、

「じゃあ、今度二人でデートしてね」

と笑顔で言い、踵を返して立ち去った。