「エレベーターの前で、芽以ちゃんが経理の笠原さん達に連れていかれるのが見えてさ、追いかけてきたんだ。」

葵生は自販機でジュースを購入すると、

「立ち聞きしてゴメンね。なんか、俺らのことで絡まれてたみたいだったから、声かけちゃった。」

といって購入した"ピーチ"を芽以に渡した。

「俺らの噂を放っておいたのが裏目に出たね。」

葵生が苦笑すると、芽以は首を振って

「いえ、あの先輩方にとっては、お二人はありがたい"萌え"なのですからむしろご褒美ですよ。」

と力説した。

「ジュースありがとうございます,,,。このジュース、私が一番好きなものです。」

「健琉に聞いた」

「健琉さん絡みでなければ、お弁当の件、上言して差し上げるのですが,,,。」

「健琉だと言えないの?」

「夫となる方の意見は絶対ですから」

芽以の瞳に迷いは見えない。

「芽以ちゃんが言えないなら、昼休みだけでも芽以ちゃんを解放するように、俺が健琉に言ってあげるよ」

「ありがとうございます。あの先輩方のためにはそれが一番いいんでしょうけど、お昼を準備するのは、婚約者として当然の気もしますし,,,」

「元々、健琉のやきもちから始まったんだ。あいつが大人になればすむことだよ。大丈夫」

葵生は、芽以の頭を撫でて言った。

「さっさと婚約のこと、ばらしたらいいのにね」

芽以は苦笑して首を振った。

「働きづらくなるでしょうし、ばれないように頑張ります。」

二人は連れだってエレベーターまで移動した。