絶叫系のジェットコースターである鉱山列車のアトラクションは、意外にも芽以のツボだったようだ。

夕食を軽いものにしていて良かったと健琉は思ったが、芽以は酔った様子もみせず、

「あぁ、時間があればもう一回乗りたかったです!」

と興奮したままだ。

「今度来たときに乗ればいい」

「えっ?また、連れてきて下さるんですか?」

芽以は子犬のように期待した目を健琉に向ける。

"くそー、可愛すぎる"

健琉は芽以の頭をグシャグシャと撫でると

「機会があったらな。ほらパレードの場所取り行くぞ」

と言って、芽以の手を引いた。

パレードは、お城にプロジェクションマッピングを映したショーの後に始まった。

人気のキャラクターが、山車に乗って踊り練り歩く様子に、年甲斐もなく芽以が興奮して手を振り返している。

時々、芽以はスマホでキャラクターの写真を撮ったりしていた。

終始笑顔の芽以に健琉の心も満たされていく。

「プロジェクションマッピングも、パレードも凄かったですね」

ワールドバザールのある店舗内でお土産を物色しながら、芽以は言った。

「それ、欲しいの?」

芽以の手には、遊園地のメインキャラクターである2匹のネズミが握られている。

「今日のことを忘れないために、お部屋に飾っておきたくて」

"いちいち言うことが可愛すぎるだろ"

「よこせ」

健琉は人形を芽以から奪い取るとレジに並んだ。

「ほらよ」

精算が終わると、紙袋をポイっと芽以に渡す。

「でも、健琉さん、私自分で」

「主人に恥かかせんなよ。俺が,,,勝手にやってんだから気にすんな」

スタスタとワールドバザールを後にする健琉を慌てて芽以が追いかける。

「健琉さん!」

突然大きな声で呼ばれて健琉が振り返る。

「あ、あの、写真を一緒に撮ってもいいですか?」

芽以は俯いて、遊園地の名前が書かれた大きなエントランスを指差した。

"写真が撮りたいのか"

芽以は戻ってきた健琉にスマホを渡すと、入り口をバックにするように姿勢を正した。

健琉は笑いながら芽以と景色に焦点を合わせる。

そこへ二人のカップルが近づいて来るのが見えた。

「あのー、よろしければお二人で写真を撮りましょうか?その後に、ついでに僕たちの写真も撮って頂けると有難いんですが。」

真面目そうな30代後半と思われる新婚風のカップルが、照れ臭そうにしていた。

断る理由もないので、健琉は素直に芽以のスマホを男性に渡して写真撮影をお願いした。

芽以は健琉と一緒に写真を撮ることになって驚いた様子を見せたが、少し嬉しそうだ。

健琉はニヤリと笑うと芽以の腰に手を回す。本日何度目かの行為に芽以も驚かない。

「はい、チーズ」

ベタな掛け声に続いて、男性は数枚写真を撮ってくれた。

場所を交代して、新婚っぽいカップルの写真を撮ってやる。

お互いにお礼を述べると、それぞれの駐車場の方へ移動していった。

乗り込んだ車の助手席で、芽以は大事そうに人形が入った袋を抱えたままスマホを操作して、遊園地で撮った写真を何度もスクロールして見直していた。

二人を包む夜景を、車のヘッドライトとスマホの光だけが照らしていた。