パーティーなんてクソほど行ったから覚えてない。

「スズキ食品の娘って言ったら分かる?」

スズキ食品は俺の会社の仕入先だ。

「契約を切ってほしくなかったらデートして」

何いってんの、こいつ。

「どっちか選んで。会社が潰れるか私とデートするか」

もし、ここでデートを選んだら次から次に無理難題をふっかけてくるに決まってる。
かといって会社が潰れて社員を路頭に迷わすこともできない。

だが、俺に脅しが通用するとでも?

「どっちもできない。でも、契約は切っていいよ」

「え……」

「だって、キミのところの契約切っても痛くも痒くもないから」

にっこりと笑って言った。

「キミみたいなところこっちから願い下げ」

最後の方は凄みを出してみた。

こいつは相当頭が悪い。
会社の規模、売り上げ、契約数。全てスズキ食品よりもこっちの方が高い。

つまり、有利なのはこっち。

「だから、契約破棄にする」

もちろん脅し。俺の勝手な自己満足で社員が頑張ってとってきた契約を切るわけがない。

「そうされたくなかったら、これ以上俺に近づかないで」

俺は唖然としている女から目を離した。

「ま、待って!」

俺の腕を掴んできた。

「ゆ、有紀さんが何かされてもいいの?!」

ブチッ

俺の堪忍袋の緒が切れる音がした。

「mizusawaグループの令嬢。今日のお見合い相手」

俺の余裕のなさを感じたのか女から慌てた必死さがなくなった。

「手の届かない雲の上の存在」

当たり前だ。

mizusawaグループは国内だけじゃなく、海外の大手企業だ。

俺だって有紀がそこの令嬢だと聞いたときに絶望した。

それほどまでにmizusawaグループと中島家は釣り合っていない。

「でも、同じ女なの」

女の目が細められた。

「私の言ってることわかるでしょ。だから、デートして」

「……………考えとく」

俺はそうはぐらかして女の手をはらった。