*side 有紀

「大丈夫か?ってそんなわけないか」

和海はくっついて離さない私を嫌がりもせずに背中をさすってくれる。

「風呂、入るぞ」

私はコクリと頷いて和海から離れた。

私の体の震えはいつの間にか止まっていた。

あの、空き教室での出来事でトラウマになってしまった私は男が沢山来た瞬間に体が思うように動かなくて、ただされるがままに恐怖で震えながら歩いていた。
そこに和海が来た時は本当に嬉しくて。
思いっきし抱きついた。
和海があの男達に怒った時も、今は私だけを見て欲しくて和海にあんな我が儘を言ってしまった。
これが恋の力なんだろうか。自分がどんどん欲張りになっていく気がする。

「有紀、俺聞きたいことあるんだけど」

二人であんまり大きくない湯船につかりながら和海が言った。
私は体にタオルを巻いている状態で、和海と向き合っていた。

「なんで、他の男とキスしてたわけ?」

「キス……あっ!宮沢君のことか」

そういえばそんなこともあった、という程度のことだ。

「あれはいきなりやられて……」

和海の表情がだんだん険しくなっていく。
これはマズい。地雷を踏んだ。

「だから、何ともない……」

フォローをしたつもりが逆効果だったよう。

「そいつの名前とクラスは?」

「宮沢君に何かするつもりなの」

それは、ダメだ。紗知は宮沢君のことが好きなんだから。

「そいつをかばうのか」

和海の顔は閻魔大王になっていく。

「紗知が宮沢君のこと好きなの」

多少、和海の顔が柔らかくなった。

「ああ、分かったから名前とクラス」

「1年C組の宮沢……」

しまった。下の名前覚えてない。

「宮沢、なに?」

「……忘れた。ごめん」

「忘れたって、有紀の中ではそんだけの存在なんだ」

さっきまでの表情はどこえやら。
和海は明るい声で言った。