「はい、じゃあここから」

委員長がそう言い、それにみんなは返事をする。えっと、どこのシーンだっけ。はぁ、私裏方が良かったのになんで。昼休みだし、碧のところに行かせてよ。

「さあ来い、無情な道案内、味気ない先導役、お前はやぶれかぶれの舵取りだ。わが恋人に乾杯!」

やはり、人気俳優なだけあって演技が上手い。私なんて足元にも及ばない。加藤くんは、そう言って水を飲み干す。設定ではこれが毒となる。

「嘘はつかなかったな、薬屋!おまえの薬はよく効くぞ。こうして口づけをして死のう」

加藤くんはそう言うと、私に近づいてくる。こんな至近距離だとなんかドキドキしちゃう。

「カットカット、キスはしなくていいからね」

途中でクラスの女子が止める。イケメンでかっこいい、みんなのアイドル加藤くんがモブみたいな女子にキスするなんて、近づくなんて許されないものね。近づけさせたくないよね、好きなんだから。

「本番も絶対にしちゃだめだからね」

またクラスの女子がそう言う。

「別に良くない?」

加藤くんがそう言うと、女子ははぁ?と言う。

「新聞部にそういうの取り上げられたら大見出しになるの!そうしたらスキャンダルみたいになるんだからね?熱愛報道とか出たらどうするの?」

出るわけないでしょう。学校の演劇祭でキスするくらいで、出たらおかしいわよ。

「わかった、絶対やらないよ」

加藤くんはそう言って溜息をつく。

「そうだよ加藤くん、しちゃダメだからね」

私は念を押すようにいう。ファーストキスは好きな人としたいんでね。

「恋咲っち、一緒に体育館行こう!」

そう言って教室に入ってきたのは奏ちゃんとお兄ちゃん。次は体育だけど、なんでお兄ちゃん達も?

「次、俺のクラスと恋咲のクラス、合同でやるんだよ」

「そっか、いいよ」

「俺のことも忘れんなよ」

加藤くんが私に抱きついてくる。なんか、体育の授業大変そうだな。奏ちゃんにお兄ちゃんに加藤くんでしょ?やばいことが起こりそう。いや、起こるに違いない。