━3年前━



 中学の2年の夏休み。
 私と凪は2人だけで海に来ていた。
 太陽は焼け付く様に暑く、青い海は太陽の光に照らされてキラキラと輝いていた。
 風はあったが太陽のせいで空気ごと温められたのか、熱風が肌を焦がす様に撫でる。
 それでも海が目前にあるのだ。
 興奮するな、なんてのは私にとって無茶な事だった。



『っはー!!気持ちいいねー!凪ー!』
『水乃ちゃん、そんなにはしゃぐと転んじゃうよー』
『ふん!運動不足の凪と違って私はソフトテニスやってるおかげで運動神経は良い方なんだから別に転んだりなんか……



 海を見た途端、興奮して我慢出来なくてサンダルを履いたまま砂浜に突っ込んだら、言葉の途中で派手な音と共に転んだ。



『~~~!!?』
『水乃ちゃん、だ……大丈夫?』



 何か熱いし、凄く痛いけど、さっき凪に言った言葉を思い出して少し恥ずかしくなる。
 だから思わず私は誤魔化す。



『い……今のはわざとよ!!
 えぇ、そう!!
 盛り上げる為にわざと転んであげたのよ!!』
『うん、でも砂浜は時々硝子の破片とかも落ちてて、混ざってるみたいだから気を付けないと……』
『う……うっさい!』



 どうやら誤魔化しにも無理があったようだ。
 凪は可愛く反応が出来ない私に優しく笑って手を差しのべてくれる。



『ははっ、ほら水乃ちゃん』
『……有り難う』



 その後私達は昼食を食べ終え、泳げない凪は浮き輪にがっしりと捕まりながら浮かび、私は遠くに行き過ぎないように浮き輪の紐を掴みながらこの先の事を考えて話す。



『はぁ、来年私達もう中学3年になるのかぁ
色々めんどいな……』
『受験生になるからね
 主に勉強が面倒くさいんだね?』
『ふんっ!成績だけは優秀な凪様には受験なんて楽勝なんでしょうけど!』
『成績だけ……って、水乃ちゃんは中々手厳しいね
 水乃ちゃんだって運動は得意なんだし、きっと推薦貰えると思うんだけどな……
 それにほら、大丈夫だよ
 僕が水乃ちゃんに勉強を教えてあげるから』
『むっ……お願いします』



 凪の少し上から目線な発言にイラッときたものの、私は凪に勉強を教えて貰わないと正直高校に受かる気がしなかったのでお願いする。
 そんな私の悔しがってる様子が面白いのか、凪はクスッと笑いを漏らした後少し呆れた様に笑って、はいはいと答えられたので、『何、面倒くさくなった?』とイタズラっぽく聞くと、『違うよ』と返答は返ってきたが苦笑してた。
 少しの沈黙の後、凪は感慨深げに海を眺めて言った。



『でも、まさか水乃ちゃんとこうして海に来れるなんて思わなかったな……』
『そりゃ、まぁ……親の許可条件だし
女の子一人で海なんて遠出は危ないんだから、せめて女友達か凪君と一緒に行きなさい!!
……って女友達は良いとして、何で凪まで良いのよ』
『う、うーん……親ぐるみの幼馴染みだから、かな?
ほら、よく知ってる人間だから……』
『へぇ、つまり凪は無害認定されてる訳だ
男として終わってない?』
『うぅっ……水乃ちゃんてば、はっきり言うね』
『一応男としてのプライドはあるんだね』
『そりゃ僕だって、水乃ちゃんに……ん?
でも、それなら何で僕以外の女の子の友達を誘わなかったの?』
『え?
あー……別に?
なんとなく、だよ』
『なんとなくって……』
『ほ……ほら、休憩終わりっ!!
 来年は受験のせいで夏休みなんて丸々潰れるんだから、今年は目一杯楽しんで遊ばないとっ!!』
『あ、水乃ちゃんいきなりっ!!
 浮き輪離したら僕溺れちゃうから、待ってー!』



 さっきの質問驚いたな。
 思わずドキドキしちゃった。
 もしかしたら凪が覚えててくれたんじゃないかと期待した。
 随分前の約束だからそんな訳がないと振り切って、何でもない様に振る舞った。