失った悲しみに



 『……凪……』



 すっかり暗くなった部屋で凪を思う。
 泣きつかれて呆然としてると、ノックされる音と共に扉越しに名前を呼ばれた。
お母さんだ。



『水乃、夕飯出来たわ』

『……うん』

『……ねぇ、水乃』

『……何?
お母さん』

『あれから、もう一週間は経ってるわ
 気持ちは解るけど、そろそろ……』

『…………』

『……って言っても、やっぱり直ぐに気持ちを切り替えるなんて出来ないわよね』



 気持ちは解るって何よ……



『……お母さん』

『ん?』

『私ね、凪と海に行く約束してたの……』

『うん』

『だからかな……
 御葬式もしたのに、実感が湧かないの……』

『うん』

『でも、もう凪の家に言っても……凪に電話しても凪は居なくて……』

『うん』

『ずっと……ずっと待ってたのに……』

『…………』

『なんか……もう、訳わかんない……
 頭が……パンクしそう……』

『幼い頃からずっと一緒だったものね……
 そう簡単には受け入れられないわよね……

 判るわ……



 お母さんの慰める様なその言葉を聞いた途端、感情がまた爆発した。



『何それ!?
 判るって何よ!?
 お母さんに私の気持ちの何が判るって言うの!?』

『……水乃』

『ほっといてよ!!』

『……分かったわ
 でもね、そうやって落ち込んでても……凪君悲しむだけじゃない?』

『うるさい!!
 ほっといてってば!!』



 思わず、怒りに任せてクッションを扉に投げる。
 扉にぶつかった音と共にずるずると地面に落ちるクッションを見ながら、お母さんの小さな『ごめんね』を聞き流して、ベッドに突っ伏す。



『……あぁ……もう本当……訳わかんない!!』



 私……最低じゃん。
 もう嫌だ……
 こんな私なんて……嫌い!!
私はたまらず、クッションに向かって大声で泣き叫ぶ。



『……うぁ……ああ……ああああああああっ!!』