そういえば、会う約束をしていたんだっけ。すっかり忘れてたよ。
つまらないテレビを消して、玄関の扉を開けに行った。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
柚生くんなんだ。でも、柚生くんじゃない。
この人間は、なんという生き物なのだろう。そもそも生き物なのだろうか。
「どうしたの?」
「えっ、と、…」
しどろもどろになって、何も言い出さず言葉を詰まらせていると頭をくしゃくしゃと彼は撫でる。
懐かしい心地に薄く涙が浮かぶ。
好きなんだ。大好きなんだ。
ずっとずっと柚生くんが大好きで。ずっとずっと彼を待っていて。ずっとずっと信じてて。
「…………、っ」
大きな水の粒が手を濡らす。
ずっと、ずっと、ずっと。
ずっとずっとずっとずっとずっとずっと。
ずっと。
「……泣きべそかくの止めたんじゃないんですか?もう」
柚生くんは自分の制服の裾に私の涙を吸い込ませて、ティッシュ越しに鼻を摘まんで鼻ふーんしてだって。
私を何歳なんだと思ってんだ。私、社会人だぞ。先生なんだぞ。
「泣き虫さんだなぁ、ほんと」
知った口を聞かないで。
うるさい、偽物。

