ただ、一生懸命な柚生くんが好きだった。


だから、一生懸命に写真に向き合う彼が好きだった。

だから、一生懸命に生きる彼が好きだった。



もともと体が弱かった彼。旅に出るって言って誤魔化してたけど、入退院を繰り返していたのを知っていた。


中学の制服姿を撮りたいと駄々こね始めた柚生くんのしつこさに負けて、入学式より早く制服の裾に腕を通した。

桜の下で撮りたいらしい。

毛虫いないといいね、と柚生くんは口許を隠して小さく笑っていた。

口許を隠すのは彼の癖で、柚生の気持ちも何もかも隠されているような気がしてならなかった。


そう思っていたから、彼のその仕草は好きじゃなかった。



その日、彼は倒れて救急車で運ばれた。

ずっと寝ている柚生くん。ぴくりとも動かない柚生くん。死んだ人みたいな柚生くん。

寝穢い。彼は寝坊助さんだ。毎日、病院に通ってもまだ寝てる。

柚生くんが寝ている間に中学校も卒業して、高校も卒業して、大学も卒業しちゃったよ。もう大人になっちゃった。


大学は都会の大学を選んで、柚生くんには毎日会いに行くことができなくなった。


そして、教師になった私は地元に帰ってきた。