「……あたし、帰る」
ブランコを降りて、
あたしは公園を後にした。
唇を噛みしめて、走り出した。
走って、走って、
ただがむしゃらに走った。
嫌だったの。
麻美さんを重ねられるのが。
嫌だったの。
麻美さんの
代わりみたいな言い方をするのが。
ねぇ、橙輝。
その眸の奥には、
誰が映っているの?
いつだってあなたは、
あたしを映してはくれない。
昔も今も、橙輝の中に生きているのは
麻美さんだけ。
橙輝はあたしを見ていない。
あたしの先に、
麻美さんを見ているんだ。
それがたまらなく嫌で、
たまらなく、悲しかった。
ただ、それだけだったのに、
あたしは意地を張ってしまった。
橙輝のせいで周りが傷つく?
どの口がそれを言うの。
橙輝を傷つけたのはあたしなのに。
心にもない言葉をぶつけたのは、
あたしのほうなのに。
「馬鹿は、あたしじゃん……」
ポツポツと、雨が降り出した。
夏の雨は、気怠さをつれてくる。
重くどんよりした気持ちが、胸の中を侵食する。
ずぶ濡れのまま走った先に見えたのは、
あの海だった。


