✻
鳴海麻美という女の人は、
橙輝の実の姉だという。
今までそんな話、
一度も聞いていなかった。
驚きが大きすぎて唖然とする。
麻美さんは、二つ歳の離れたお姉さん。
天真爛漫な彼女は昔から気は強くて、
責任感も持ち合わせた女性だった。
そんな麻美さんの誰よりも近くにいたのが橙輝だ。
橙輝は小さい頃から麻美さんを慕い、
中学に上がるまではお風呂も一緒に入っていたくらい。
けれど、その幸せな暮らしは一瞬で崩れた。
「俺は、中学に上がる頃になって
気付いたんだ。自分の気持ちに」
橙輝が中学一年に上がった頃、
彼女は中学三年だった。
一段と素敵な女性になっていった彼女のことを、
一人の女として意識するようになったという。
「それで……今は?」
「今はもう……想いも告げられないし、
二度と顔を合わせることもない」
「えっ?」
「麻美はもう、亡くなってるんだ」


