SKETCH BOOK



瞬間、橙輝の顔が柔らかくなった。


こいつ、こんな顔も出来るんだ。


パパの顔と重なる。


パパもこうして柔らかく笑うんだ。


橙輝はきっと、どこまでも
パパ似なんだね。


そういうあたしも
お母さん似だけれど。


あたしは橙輝の隣に腰を下ろした。


「ねえ、橙輝のお母さんは、
 どんな人だった?」


「えっ?」


「橙輝ってパパ似でしょ?
 お母さんはどうだったのかなって」



橙輝は動かしていた手を止めて、海を見つめた。


キラキラ光る海はとても綺麗で、
砂浜にはそれほど多くはないけれど、


人がちらほらいた。


地面の砂をいじっていると、隣から声がした。


「母さんは、酷いやつだよ」


「えっ?」


「親父がいながら、浮気してたんだ。
 それも何人もの相手と。
 離婚したのは、それが発覚したからだ」


「そう、なんだ……」


「女なんか嫌いだ。自分勝手で、わがままで。
 したたかな生き物だよ」


橙輝の表情は険しかった。


浮気か。


そんな過去があったなんて知らなかった。


だって、パパも橙輝も、
何も話してくれなかったから……。


「お前の親父は?どんなだった?」


「あたしのお父さんは……」