「何を描いてるの?」
あたしが覗き込むと、橙輝は
はっとしたように
急いでスケッチブックを閉じた。
あたしの顔を見て、
橙輝はごくりと息をのんだ。
「何よ。別に隠さなくてもいいじゃない。
何描いてたの?」
「別に。海に来て山を描く馬鹿はいないだろ。
海を描いてたんだよ。海を」
「いちいち頭にくる言い方ね。
あんた少しは気をつけなさいよ」
「あんたとはなんだ、あんたとは。
仮にも兄貴になるやつに」
「あら、パパたちが再婚するのは
あと三か月はあるわよ」
「あー、そうかよ」
「ふふ。橙輝のふくれっ面可笑しい」
「別にふくれてなんか……」
初めて、橙輝が隙を見せた気がする。
なんだかとても近くに感じて、嬉しくなった。
そうよね、橙輝だって高校一年生だもんね。
近くて、当たり前だよね。
「海、そんなに楽しいか?」
「えっ?」
「はしゃぐくらい楽しいか?」
「え、うん。海は好きだよ」
「そうか」


