「わぁ。海綺麗!」
橙輝を押しのけて
あたしは大きく叫んだ。
時期的には泳げないけれど、
今日は特別暖かい。
足くらい入っても十分気持ちいいだろう。
あたしは砂浜を裸足で駆け出した。
そっと水に足をつけると、
ひんやりと冷たい。
波は少し色濃くなった砂浜を潤わせ、
そして引いていく。
波が引く時の感触が
なんとも言えない気持ちよさ。
橙輝のことを忘れてはしゃいでいた。
最近勉強続きだったから、
こんな息抜きも悪くないと思えた。
出てくる時は緊張で吐きそうだったけれど、
まさかこんなところに連れて来てもらえるなんて
思ってなかった。
久しぶりに見た海は
あたしの気持ちを高揚させ、
モヤモヤした心の中を
まるごと洗い流してくれた。
ふと、橙輝のことが気になった。
ちらっと見渡すと、橙輝は
砂浜に座ってスケッチブックと
にらめっこしていた。
なんだ。
海に絵を描きに来たのか。
謎が解けて、ほっと息をついた。
橙輝が絵を描きに来ただけなら、
あたしは十分はしゃいでいてもいいんだ。
そう思うと楽しくなってきて、
気付く頃にはお腹がすいてきた。
橙輝のところへ駆け寄ると、
橙輝は顔をあげた。


