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土曜日。
あたしはリビングでテレビを見ていた。
結局今日はいつものショートパンツに
大きめのパーカーという格好だ。
特別面白くもない番組をじっと眺めていると、
リビングの扉が開いた。
振り返ると、
私服に着替えた橙輝が立っていた。
「行くぞ」
自転車のカギをヒラヒラと揺らして、
橙輝は言った。
ついに来たか。
やっぱり夢じゃなかったのね。
あたしは重い腰を上げて橙輝の背中を追った。
外に出ると、雲一つない快晴だった。
大きく伸びをすると、橙輝はあたしを見つめた。
「乗れ」
橙輝は自転車に跨った。
あたしも同じように後ろに跨った。
「しっかり掴まってろよ」
橙輝がそう言うと、自転車は
勢いよく走り出した。
風が、とても気持ちいい。
梅雨明けにはまだまだ時間がかかるけれど、
この日は特別に暖かかった。
パーカーで出てきたことを悔やむくらい、暑かった。
「ねえ、どこに行くの?」
「…………」
「ねぇ」
「…………」
「橙輝」
「…………」
「ねぇってば!」
大きな声で聞いたのに、橙輝は
あたしの声に応えることはなく、
自転車はすいすいと進んでいった。
まったく。
何だっていうのよ。
緊張を通り越してイライラしてきた。
このせっかくの休日なのに
無駄になったらどうしよう。
そんなことを思いながら、あたしは
ただ流れていく景色を眺めていた。
しばらく走って、橙輝は自転車を停めた。


