SKETCH BOOK







あれから数日。


橙輝の様子は変わらなかった。


前と同じ。


あの時のことなんか
なかったかのように振る舞っている。


一方のあたしはというと、
橙輝を見るたびに心臓がドクンと跳ねる。


耳や胸が疼いて止まらない。


変わったことと言えば、
あたしが橙輝に近付かなくなったことだけ。


普通の会話もままならないまま、
六月の梅雨の時期に入った。


雨を見ると思い出してしまう。


あの雨の日のことを。


昔から雨は嫌いだったけれど、
ますます嫌いになりそう。


ああもう。


どうしたらいいのか分からない。


「おい」


ある日、橙輝があたしの部屋を訪ねた。


緊張して声をあげてしまいそうになる。


そんな緊張を隠して、
あたしもいつも通り振る舞おうと返事をした。


「は、入っていいよ」


カチャっと音がすると、橙輝が入って来た。


制服のままの橙輝は少しだけ
部屋の中を見回して、それからあたしを見た。


あれからまともに顔を合わすのは久しぶり。


家でも教室でも、あたしは
橙輝を避けまくってきた。


でもまさか橙輝が自分から
顔を出すとは思わなかった。


びっくりして思わず目を逸らした。


「な、なに?」


「お前さ、今度の土曜日、空いてるか?」


「へっ?」


顔を上げると、橙輝は少し
目を逸らして頭をかいた。


「暇か?」


「べ、別に何もないけど……どうしたの?」


「……ちょっと出かけねぇか?」


「えぇ?」