あたしの家は、少し複雑。


お父さんとお母さんは
毎日喧嘩をしていて離婚寸前。


帰ったらお母さんの愚痴に付き合わされるし、
お父さんが帰ってからは、


今度はお父さんの愚痴を聞くことになる。


想像しただけで
ため息が出るような暮らしにうんざりしていた。



どうしよう。


嫌だけど、帰るしかないかぁ。


ため息をついて席を立つと、
ドン、っと誰かにぶつかった。


どんくさいあたしは床に倒れ込んで、
開けていたカバンの中からは荷物が散らばってしまった。




「あ、ご、ごめんなさい!」


すぐに荷物を拾い上げて
ぶつかった相手を見ると、思わず声をあげた。


「あっ……」


「……悪い」



隣の席の子だ。


男の子は自分の荷物を拾い上げて、
教室を出て行った。


初めて声を聞いたけど、
ほどよく低いのに、調子は明るい。


男の子がいなくなってもまだ、
あの声が響いていた。


あたしも散らばった荷物を片付けようと
手を伸ばした時、ふと気が付いた。


「あれ?」


あたしのものじゃないものが落ちている。


一冊のスケッチブック。


隅のほうには小さな字で
〈鳴海橙輝〉と書かれていた。



「なるみ……なんて読むんだろう……」


きっとこれは、あの男の子のだ。


さっきぶつかった時に
落としていったのかもしれない。


鳴海くんかぁ。


自己紹介、もっとちゃんと
聞いておけばよかった。


そんなことを思いながら、
あたしは立ち上がって教室を出た。


まだ真新しい制服に身を包み、
慣れない校舎を歩く。


中学とは違う雰囲気に、ああ、
もう高校生なんだという実感が湧いてきた。


とりあえず、中学の頃は出来なかった
買い食いをしてみよう。


そう思い立って、足を速めた。


駅前に出来たクレープ屋さんに寄ってみよう。


一人でだって大丈夫。


だってあたしは、高校生だもん。